大判例

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神戸地方裁判所 昭和59年(行ウ)1号 判決

原告

松田操こと

松田彰久

右訴訟代理人弁護士

武田雄三

渡辺勝之

被告

三木市長

大原義治

右訴訟代理人弁護士

奥村孝

中原和之

主文

一  被告が昭和五八年三月二三日付告示により為した都市公園供用開始処分のうち別紙物件目録記載の土地に関する部分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

主文と同旨

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は、原告が所有するものである。

2  被告は、原告の同意その他都市公園として公の用に供するために必要な何らの権原をも取得することなく、昭和五八年三月二三日付告示により本件土地を含む土地につき、都市公園の供用開始処分(以下「本件供用開始告示処分」という。)をなしたものであり、右処分は本件土地に関する部分につき違法なものであり、その取消しを免れえない。

3  よって、原告は被告に対し前記請求の趣旨記載の判決を求める。

二  請求の原因事実に対する被告の認否と主張

1  認否

(一) 請求の原因1項記載の事実は認める。

(二) 同2項のうち、被告が昭和五八年三月二三日付告示により本件土地を含む土地につき都市公園法による供用開始の公告をしたことは認め、その主張は争う。

2  主張

(一) 訴外明盛開発株式会社(以下「明盛開発」という。)は、本件土地を含む一帯の土地につき、訴外鹿谷伊三郎名義で同人を事業主として兵庫県に対し住宅地造成事業に関する法律(以下「宅造事業法」という。)に基づく住宅地造成事業の申請をなし、昭和四六年一月一四日兵庫県知事から右事業認可を受け事業に着手した。本件土地は同法四条、五条に基づき公共施設の用に供する土地として事業計画に定められ、その範囲も図示特定された公園である。

本件事業は昭和四七年六月一五日その工事が完了し、同四八年七月二五日兵庫県の完了検査を受け、同年八月一〇日法所定の検査済証が兵庫県知事から右事業主に交付された。兵庫県知事は同月二一日同法一二条による工事完了の公告をした。

したがって、本件土地は右公告によって公園として公知の状態となり、また、同法一五条二項によって右公告の翌日である同月二二日管理者である三木市に公園地としてその所有権が帰属することとなり、被告は同日以降本件土地を公園として管理して来た。

(二) 右事業をうけて、被告は都市公園法所定の手続を経て適法に本件供用開始告示処分を行ったものであるから、本件供用開始告示処分は手続面においては何らの瑕疵もないものである。

(三) 本件土地が宅造事業法によって公園として三木市に帰属したのは昭和四八年八月二二日であるが、原告はその後の同五〇年一二月一〇日受付、同年一一月一九日譲渡担保を原因として所有権移転登記を経ているので、原告が右登記をした本件土地につきその後になされた本件供用開始告示処分の効力が問題になるが、本件は行政処分の適法性の問題であって実体法的な二重譲渡の問題とは観点が異なるものといわざるをえない。

この点、都市公園法(昭和三一年法律第七九号)によれば公園の設置にあたっては、公園の敷地につき所有権、賃借権、地上権等の権原の取得及びそれに伴う登記は要件とされていない。

それは、もし所有権等の権原の取得及びその登記を公園設置の要件とするときは、本件桜が丘公園のような宅造事業法に基づいて造成工事された公園であり、三木市が同法一五条二項により本件公園地の所有権を取得したものであっても、地方公共団体とは何らの関係のない本件開発業者のような者が、勝手に公園予定地を第三者に売却し登記を経た場合には、公園として予定されていたものが全くできなくなってしまうからである。

(四) 本件のように第三者が登記を経た土地につき都市公園の供用開始告示処分があったような場合には、その土地の所有権の得喪については民法一七七条の適用があり、地方公共団体はその土地所有権を第三者に対抗できないが、その第三者及びこの者からの譲受人は都市公園を構成する土地につき都市公園法二二条によって公園としての利用を妨げるような権利の行使ができないという制約を受けるにすぎないものと解すべきである。

三  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1  認否

(一) 被告の主張(一)は不知又は争う。

(二) 同(二)は、被告がその主張の都市公園の供用開始告示処分を行ったことは認め、その余は争う。

(三) 同(三)は、原告が本件土地につき被告主張のように所有権移転登記を経たことは認め、その余は不知又は争う。

(四) 同(四)は争う。

2  反論主張

(一) 都市公園等の公物が成立するためには、少なくとも行政行為たる公用開始行為が必要であるが、行政主体が公物の公用開始をするには、その前提としてあらかじめ土地等につき正当な権原を取得しておくことが必要である。

すなわち、行政主体は、他人の所有する土地等を公の目的に供用するためには、あらかじめそれについて所有権、地上権、賃借権その他の支配権等を取得することが必要である。これは、個々の法律に明文の規定があるか否かにかかわらず、財産権を保障する憲法の精神からいって当然の要請である。したがって、何らの正当な権原もなく、他人の物について公用開始行為をしても、それは無効と解される。しかるに、被告は本件供用開始告示処分を行うに際し、本件土地につき何らの正当な権原を取得しておらず、それ故に本件供用開始告示処分は違法・無効であってこれが取り消されるべきものである。

これに反し、被告は、「都市公園法には、公園の設置にあたってその公園の敷地につき所有権、賃借権、地上権等の権原を取得することを要件としていない。」旨主張する。

右の点につき、都市公園法には明文の規定はないが、前述のとおり、公物の公用開始にあたり、行政主体が何らかの正当な権原を取得することが必要なことは憲法上の当然の要請であり、一つの都市公園法のみが、右要請を免れうる特別の理由はない。

逆に、都市公園法一七条において、「公園管理者は、その管理する都市公園の台帳(都市公園台帳)を作成し、これを保管しなければならない。」と規定し、これを受けた同法施行規則九条二項五号には、「(都市公園台帳調書には)敷地面積及びその土地所有者別の内訳並びに当該土地所有者の所有する敷地について公園管理者の権原(を記載するものとする)」とされており、何らかの正当な権原を取得することが当然の前提として規定されている。

(二) 被告は、本件土地の所有権が宅地造成事業の工事完了公告日(昭和四八年八月二一日)の翌日である同月二二日に三木市に帰属し、被告は同所有権に基づき本件供用開始告示処分をした旨主張するが、三木市は右所有権の取得につき登記を経由しておらず、したがって、本件土地につき所有権を取得し登記を経由している原告に対し、何ら対抗しえないものである。

ましてや、被告が本件供用開始告示処分の告示をしたのは、原告から三木市に対する本件土地所有権確認訴訟において、原告の所有権を認める判決があり、右判決に対する被告側の上告棄却(判決言渡日は昭和五八年三月一一日)により三木市が所有権を有しないことが確定した後になされたものであり、本件供用開始告示処分が違法・無効であることは明らかである。それに加えて、被告側が「その他の権原」を取得した事実は全くない。

すなわち、被告は三木市において本件土地につき所有権その他何らかの権原を取得していないのにかかわらず都市公園の供用開始告示処分をなしたものであり、その違法・無効は明白である。

第三  証拠〈省略〉

理由

一原告が本件土地を所有するものであること、被告は昭和五八年三月二三日付告示により本件土地を含む土地について都市公園法による供用開始の公告をしたことについては当事者間に争いがない。

二本件供用開始告示処分の経緯について

〈証拠〉を総合すると、次の事実が認定でき同認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  明盛開発は、本件土地を所有していたが、同土地を含む一帯の土地について訴外鹿谷伊三郎名義で同人を事業主として兵庫県に対し宅造事業法に基づく住宅地造成事業の申請をし、昭和四六年一月一四日兵庫県知事から右事業認可を受け事業に着手した。

なお、右法律は昭和四三年六月一五日法律第一〇〇号(都市計画法)附則二項により廃止されたが、右住宅地造成事業は都市計画法施行法七条所定の要件に該当していたので宅造事業法の廃止後も同法が適用されることとなった。

(二)  この事業計画には、当初、本件土地とは別の場所が宅造事業法四条、五条の規定に基づく公共施設の用に供する土地として公園に定められていたが、明盛開発は、昭和四七年三月二九日、鹿谷伊三郎名義で兵庫県知事に対し本件土地を含む土地を公園用地に変更することなどを内容とする事業計画変更認可申請書を提出し、同年四月二一日又はその前にその認可を受けた。

右事業計画では、本件土地を含む公園用地は図示特定され、また、本件公園の管理者は三木市長であり、その用地は三木市に帰属する旨定められている。

(三)  右事業は昭和四七年六月一五日その工事が完了し、昭和四八年七月二五日兵庫県の完了検査をうけ、同年八月一〇日法所定の検査済証が兵庫県知事から右事業主に交付された。

(四)  兵庫県知事は同月二一日宅造事業法一二条三項による工事完了の公告をしたので、同法一五条二項によって本件土地は公園として右公告の翌日である同月二二日三木市にその所有権が帰属し、被告は同日以降本件公園の管理を行うに至った。

(五) ところが、原告はその後記三1のように本件土地所有権を取得し登記を経たので本件土地所有者であると主張して三木市を相手に本件土地所有権確認訴訟を提起したので、被告は同訴訟の上告審判決(昭和五八年三月一一日言渡)後の同月二三日付告示により、本件土地を含む土地につき都市公園法二条の二の供用開始の公告をした。

三本件供用開始告示処分の効力について

原告は、本件供用開始告示処分は三木市において本件土地につき何らの正当な権限を取得しないままなされたもので、違法無効である旨主張する。

1 そこでまず、本件供用開始告示処分が何らの正当な権原に基づかずになされたかについて検討するに、前記二掲記の関係各証拠によると、次の事実が認定でき同認定を左右するに足りる証拠はない。

(一) 三木市は、前記二のとおり、昭和四八年八月二二日宅造事業法一五条二項によって公園地として本件土地所有権を取得した。

(二)  他方、右三木市の所有権取得後も本件土地の登記名義人であった明盛開発は、昭和五〇年一一月一九日本件土地を訴外藤本高一に譲渡し同日売買を原因とする所有権移転登記をし、更に同藤本高一は同日譲渡担保によって原告に本件土地所有権を譲渡し同年一二月一〇日右譲渡担保を原因として所有権移転登記をした。

(三)  原告と三木市間の本件土地所有権確認訴訟において、原告が本件土地の所有権を有することを確認する旨の第一審の判決及びこれに対する控訴を棄却する旨の判決があり、右控訴審判決に対し三木市が上告し、大阪高等裁判所昭和五六年(ツ)第四四号をもって同裁判所に係属したが、昭和五八年三月一一日上告棄却の判決が言渡され、三木市が本件土地所有権を有しないことが確定した。

また、被告が本件供用開始告示処分を行うに際し、三木市において所有権に代わる地上権、賃借権等の権原を取得することもなかった。

したがって、三木市において本件土地の公園用地としての使用につき森本高一及び原告に対抗できる何らの権原を取得しなかったにもかかわらず、被告は本件供用開始告示処分をしたものである。

2  そこで、本件供用開始告示処分の効力について検討するに、原告は何らの権原に基づかない本件供用開始告示処分は違法・無効と主張し、被告は本件供用開始告示処分には三木市において公園の敷地につき所有権その他の権原の取得は要件でない旨反論する。

ところで、都市公園法に定める都市公園の開設には、その管理者となる者による供用開始の告示を行うことが必要である(同法二条の二)が、同告示により都市公園が開設されると私権行使の制限を受ける(同法二二条)ことになるので、同法には明文の規定はないけれども、私有財産権を保障した憲法二九条の趣旨及び都市公園法一七条、同法施行規則九条、同法二三条三項の規定文言(権原)からみても、国又は地方公共団体は都市公園の供用開始の公告をするに当たり、当該都市公園を構成する土地を公園用地として使用するにつき右土地上に所有権その他の正権限を取得していることを必要とするものであり、他人所有地につき何らの右権原を取得することもなくなされた公園供用開始告示処分は前記法条に照らし違法と解すべきである。

これを本件についてみると、前記三1のとおり、三木市は昭和四八年八月二二日都市公園法に定める公園として本件土地所有権を取得したが、その登記を経由しない間の昭和五〇年一一月一九日に、三木市の前主が本件土地を訴外藤本高一に譲渡して同日付で同人のため売買を原因とする所有権移転登記を経由し、同日原告は右藤本から譲渡担保によりその所有権を取得し同年一二月一〇日所有権移転登記を経由したために、三木市は原告に対し本件土地所有権取得を対抗しえなくなり、また、本件供用開始告示処分の際にも三木市は本件土地につき所有権に代わる他の権原を取得していなかったのであるから、被告は原告所有の本件土地につき権原に基づかずに本件供用開始告示処分を行ったものといわざるをえず、これが違法と解すべきである。

なお、被告は前記大阪高等裁判所昭和五六年(ツ)第四四号事件判決(前記上告審判決)を引用して、本件のような場合においても、都市公園を構成する土地の所有者は、その土地につき都市公園法二二条により公園としての利用を妨げるような権利の行使ができないという制約を受けるにすぎないと主張するが、同判示の場合は供用開始告示処分が当初適法に行われた場合(同判決が引用する最高裁第一小法廷昭和四四年一二月四日判決・民集二三巻一二号二四〇七頁参照)であって、供用開始告示処分が当初より無権原に行われた本件の場合とは事案を異にするものといわざるをえない。そのほか本件公園供用開始告示処分に取消しうべき違法はないとする被告の主張は、いずれも前示説示に照らし理由がないことが明らかである。

四以上の次第で、本件供用開始告示処分は正当な権原に基づかずに行われたもので違法であるから、原告の本訴請求は理由があるものとしてこれを認容し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官野田殷稔 裁判官小林一好 裁判官植野聡)

別紙物件目録

三木市別所町小林字釜ケ谷七三四番六四三

山村 一九八平方メートル

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